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利益から求める必要売上高計算の演習問題

利益を1増やす売上は?

 某大手税理士法人のWebサイトに、次の一節があります。移転価格解説に関する一文です。移転価格とは、企業が海外に持つ子会社や関連会社との取引価格を指しています。趣旨はそのままで、文章は差し障りのないよう若干変えました。カギ括弧「 」内は、サイトからの引用文で、二重カギ括弧『 』内は、小生の注釈です。

「利益率1%の企業では、利益1を生み出すのに、売上を100伸ばすことが必要『仮に売上が10増えると、売上10×利益率1%=利益0.1。だから、利益を1増やすには、この10倍、100が必要となる』。つまり、支払う税金が12減少し、利益が12増加することは、売上を1200増加させることと同じ効果がある」

 この解説は、正解に必要な条件が不足しており、間違いです。同じような事例はかなり多く、半ば常識化している傾向が見られます。この見方を放置して話を進めてしまうと、収益問題の理解に危惧を生じかねません。実際に、同種の演習問題を、セミナー、講演会、教育、企業内プロジェクト会合でしばしば実施してきたところ、結果は模範的な誤答が大半でした。そこで、最初に演習問題を取り上げることにしたわけです。某Webサイトの正解は、演習の最後で紹介させていただきます。

 本稿の狙いは2つあります。1つは、常識の思考回路を切り替えることに挑戦していただくこと。もう1つは、儲かる判断基準を知ることです。早速、思考切り替え用の演習問題に移りましょう。決して、知識を問うつもりではないことをお断りしておきます。

演習問題1「営業利益増加の必要売上高」

 売上高100億円/年、営業利益10億円(営業利益率10%)、売上高に対する変動費率50%の企業がある。売上増による営業利益が、1億円増加したときの売上高はいくらか?
■答は?
 営業利益率は10%。だから、売上高1億円につき10%で、営業利益は0.1億円となります。そこで、1億円の営業利益を得るためには、この10倍、10億円の売上が必要です。したがって、必要売上高は110億円となります。では、もう1つの解き方をしてみましょう。
 営業利益率が10%、営業利益が11億円のときの売上高を求めます。
売上高×営業利益率10%=営業利益11億円売上高×10%=11億円売上高=11億円÷10%∴売上高=110億円
 答は2つとも同じになりました。しかし、両方とも間違いです。では、演習問題を図に置き換えることにしましょう。次の図を収益構造図と呼びます。説明は後段でおこないますが、まず図解した内容を見てください。

演習問題1の収益構造図
演習1の図.png

売上高に対する変動費率が50%だから、
変動費=売上高×50%=100×0.5=50億円営業利益は10億円ですから、固定費=売上高-変動費-営業利益   =100-50-10=40億円売上高-変動費=限界利益なので、限界利益は50億円
この数値を収益構造図に当てはめると、上の図になります。営業利益率は10%。問題は、現状の営業利益をあと1億円増やしたときの売上高がいくらになるかです。

演習問題1の算出途中の収益構造図
演習1の途中の図.png

収益構造図の右側が売上高の内訳で、左右同額です。営業利益11億円時の売上高を求めるので、売上高をSと置きます。変動費は売上高の50%だから、変動費=S×0.5です。上の図が内容です。計算式にして解を求めてみましょう。
S=0.5S+40+11S=51÷0.5S=102億円
営業利益が11億円のときの売上高は102億円となりました。正解の収益構造図は、次のとおりです。

演習問題1の正解の収益構造図
演習1正解の図.png

模範的な誤答の例では、売上高が110億円でした。しかし実際には、営業利益を1億円増加させる売上高は、100億円の2%で済むわけです。

演習問題2「売上増加時の営業利益」

 売上高100億円/年、営業利益10億円(営業利益率10%)、変動費率50%の企業がある。売上高が10%増加したときの営業利益はいくらか?
■答は?
 売上高10%増加時の売上高は、100×1.1=110億円。営業利益率は10%だから、営業利益は売上高110億円×10%=営業利益11億円となります。

これを計算式にしましょう。
営業利益率が10%で、売上高が10%増加したときの営業利益を求めます。営業利益=売上高100×1.1×営業利益率10%営業利益=110×10%=11億円∴営業利益=11億円

答は2つとも同じですが、両方とも間違いです。では、演習問題を収益構造図に置き換えることにします。

演習問題2の収益構造図
演習2の図.png

売上高に対する変動費率が50%だから、
変動費=売上高×50%=100×0.5=50億円
営業利益は10億円ですから、
固定費=売上高-変動費-営業利益
   =100-50-10=40億円
売上高-変動費=限界利益なので、
限界利益は50億円

 営業利益率は10%で、現状の収益構造図は前項、演習問題1と同じになっています。与えられた問題は、現状の売上高が10%増加したときの営業利益がいくらになるかです。

演習問題2の算出途中の収益構造図
演習2の途中.png

 収益構造図の右側が売上高の内訳で、左右同額です。売上高が10%増加したときの営業利益を求めるわけですから、仮に営業利益をGと置きます。

売上高が10%増加すると、
100×1.1=110億円
変動費率は50%だから、
変動費=110×0.5=55億円
限界利益=売上高-変動費ですから、
限界利益=110-55=55億円

 ここまで算出した内容で、図の費目を埋めていくと、営業利益が15億円とわかります。計算するまでもないといいたいところですが、計算式による解を確認のために求めてみましょう。計算式では、左辺に売上高を置き、右辺に図の右にある数値を当てはめていきます。したがって、計算式は次のとおりです。

売上高110=変動費110×0.5+固定費40+営業利益G
∴G=15億円

 売上高が10%増加時の営業利益は15億円となります。念のため、数値を入れた収益構造図を次に掲げました。

演習問題2の正解の収益構造図
演習2正解の図.png

見てきたように、演習問題2では計算式にするまでもなく、正解を得られることがわかりました。図解して考えれば、意外に簡単です。収益構造図をいつでも描けることを、小生は推奨しています。

つぎに、これまでの演習問題を少し変えて、変動費率の異なる問題を取り上げてみましょう。

演習問題3「営業利益増加の必要売上高」

 売上高100億円/年、営業利益10億円(営業利益率10%)、売上高に対する変動費率10%の企業がある。売上増による営業利益が、1億円増加時の売上高はいくらか?
演習問題3の収益構造図
演習3の図.png

現状の収益構造図を作成します。売上高に対する変動費率が10%だから、
変動費=売上高×10%=100×0.1=10億円
営業利益は10億円ですから、
固定費=売上高-変動費-営業利益
   =100-10-10=80億円
売上高-変動費=限界利益なので、
限界利益は90億円

現状の収益構造図ができました。問題は、現状の営業利益が1億円増加したときの売上高がいくらになるかです。

演習問題3の算出途中の収益構造図
演習3の図途中.png

 収益構造図の右側が売上高の内訳で、左右同額です。営業利益11億円時の売上高を求めるので、売上高をSと置きます。変動費は売上高の10%だから、
変動費=S×0.1です。
上の図はこの内容を現しています。
計算式に置き換えて、解を求めましょう。

S=0.1S+80+11
S=91÷0.9
S≒101.11億円

営業利益11億円のとき、必要売上高は101億円強となります。

演習問題3の正解の収益構造図
演習3正解の図.png

演習問題4「営業利益増加の必要売上高」

 売上高100億円/年、営業利益10億円(営業利益率10%)、売上高に対する変動費率80%の企業がある。売上増による営業利益が、1億円増加時の売上高はいくらか?

演習問題4の収益構造図
演習4の図.png

現状を収益構造図にします。売上高に対する変動費率が80%だから、変動費=売上高×80%=100×0.8=80億円営業利益は10億円ですから、固定費=売上高-変動費-営業利益   =100-80-10=10億円売上高-変動費=限界利益なので、限界利益は20億円
現状の収益構造図を確認して下さい。与えられた問題は、現状の営業利益が1億円増加時の売上高がいくらになるかです。

演習問題4の算出途中の収益構造図
演習4途中.png

収益構造図の右側が売上高の内訳で、左右同額です。営業利益11億円時の売上高を求めるので、売上高をSと置きます。変動費は売上高の80%だから、変動費=S×0.8です。左図がこの内容を現しています。計算式に置き換えて、解を求めましょう。
S=0.8S+10+11S=21÷0.2S=105億円
営業利益11億円時の必要売上高は、105億円です。

演習問題4の正解の収益構造図
演習4の正解の図.png

正解の収益構造図です。

某Webサイト「利益率1%の企業」の検証

演習問題の前で紹介した、某大手税理士法人Webサイトの内容を検証しま しょう。内容は「利益率1%の企業では、利益1生み出すのに、売上100 伸ばすことが必要」でした。この問題には変動費率の前提が記載されてい ません。そこで、変動費率を10%、50%、90%の3つのケースで試算して みます。問題は、利益1を生み出すのに必要な売上高を求めることです。

■変動費率10%のケース

変動費率10%の現状
変動費率10.png

左が現状の収益構造図です。まず、営業利益が1から2になったときの売上高Sを算出します。それから、営業利益を1増やす売上高S"の算出です。

注「”」.ダブル引用符,ダブル・クォーテーションマーク

変動費率10%の算出途中
変動費率10途中.png

売上高を求める計算式は、次のようになります。

S=0.1S+89+2
S=91÷0.9≒101.11
S"=営業利益1増加後の売上高101.11-現状の売上高100=1.11

したがって、営業利益を1増やす売上高は1.11となります。

変動費率10%の正解
変動費率10正解.png

正解の収益構造図です。


■変動費率50%のケース

次は、変動費率が50%のケースです。

変動費率50%の現状
変動費50.png

上の図が現状です。営業利益2のときの売上高Sを算出し、それから営業利益を1増やす売上高S"を求めます。

変動費率50%の算出途中
変動費50途中.png

S=0.5S+49+2
S=51÷0.5=102
∴S"=102-100=2

したがって、営業利益を1増やす売上高は2となります。

変動費率50%の正解
変動費50正解.png

正解の収益構造図です。

■変動費率90%のケース

次は、変動費率が90%のケースです。

変動費率90%の現状
変動費90.png

左図が現状です。営業利益2のときの売上高Sを算出し、それから営業利益を1増やす売上高S"を求めます。

変動費率90%の算出途中
変動費90途中.png

S=0.9S+9+2
S=11÷0.1=110
∴S"=110-100=10

したがって、営業利益を1増やす売上高は10となります。

変動費率90%の正解
変動費90正解.png

正解の収益構造図です。

利益率1%の企業のまとめ

 注釈を除いて、某大手税理士法人Webサイトの内容を再録しましょう。

「利益率1%の企業では、利益1を生み出すのに、売上を100伸ばすことが必要。つまり、支払う税金が12減少し、利益が12増加することは、売上を1200増加させることと同じ効果がある」

 サイトの解説では、利益1を生み出す売上高は100必要となっています。しかしながら、営業利益率1%の企業が、利益1を生み出す変動費率に応じた売上増は、前項までの算出結果により次のとおり明らかになりました。

変動費率10%のケース:利益1を生み出す売上増は 1.11
変動費率50%のケース:利益1を生み出す売上増は 2
変動費率90%のケース:利益1を生み出す売上増は 10

 ちなみに、某大手税理士法人Webサイトにあった売上高100増加時では、営業利益はいくら増えるのでしょうか。変動費率を50%として計算します。前項の変動費率50%の収益構造図と同じケースです。増加後の売上高は200、変動費は100、固定費49、求める営業利益をGとすると、答は次のようになります。

増加後の売上高200=変動費100+固定費49+営業利益G

だから、売上を100伸ばすと、営業利益は1ではなく51の増加となります。