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改善の作業速度は相対評価

 作業速度改善の達成度は、絶対値で捉えるべきか、または相対値で捉えるべきかが、ここでのテーマです。作業改善を要素に分解すると、無駄な動作の削減、作業速度を上げる、方法の改善などあります。この中の一つ、作業速度には達成度を評価する基準、あるいはポリシーが不可欠です。たとえば、スポーツ選手、健常者、高齢者、障害者などの身体的条件、作業者の熟練度・適正・努力、作業者の身体的・精神的状態・疲労度により、作業速度は変化します。作業速度改善の方策として、速い作業速度をさらに引き上げるのか、緩やかな作業速度を速い作業者の速度にまで高めるのか、現状の作業速度を少しでも速くなれば良しとするのかなどあります。

 足の速度には、正常ペース、あるいは作業速度を示す、ビドーの基準が知られています。ビドーは、B60のように、Bプラス数値で標記するのが普通です。作業者の作業速度の提唱者は、Bedox、Shumardの両氏ですが、Bedox氏の頭文字を一般に使っています。ビドーでは、歩行速度1.0m/秒を指数45、速さをfair-(フェアマイナス)とする相対表示です。たとえば、足の速さを例に取り上げましょう。

 歩行の正常ペースとは、荷物を持たずに平坦な道を真直ぐ、1時間に3マイル(4.8km)歩く人の足の速さです。換算すると、1秒間に1.33m進む速さになります。前段でも触れたとおり、この速さを正常ペースと呼び、B60(びどーのろくじゅう)と標記します。

 日本の自動車メーカーなどの工場では、B60の25%増しの速度を基準とすることが普通におこなわれてきました。ビドーの数値部分は、相対指数なので次のように算出します。

 60×1.25=75 → B75と標記
 足の速度は、1.0m/秒×(75÷45)≒1.666≒1.67m/秒

 考えかたに入る前に、PTS法(predetermined time standards)に触れます。動作が決まると時間が決まるというのが、PTS法の基本的考えかたです。PTS法には、作られた目的から、いろんな手法があります。代表格には、WF法、MTM法、MODAPTS法などです。歩行速度の格付けは、手法別に次のように設定されています。

 WF法      B75 1.67m/秒
 MTM法     B60 1.33m/秒
 MODAPTS法 B50 1.11m/秒

 各手法別に作業速度の基準が変わっています。手法選択の考えかたは、どの作業速度を現場の基準とするかです。さて、ここからが思案のしどころです。仮にWF法を採用するとします。同手法の歩行速度の基準は1.67m/秒です。実際の作業現場では、歩行速度が1.2m/秒とします。WF法の基準到達まで、あと0.47m/秒、39%のスピードアップを図ることが必要です。逆に言えば、世間では普通の1.67m/秒まで、速度を上げるよう即指導すべきなのでしょうか。一つの基準を持って、それに到達するように作業改善する方法を、ここでは絶対値で捉える見方と称しています。

 もう一つの見方があります。現状の歩行速度は1.2m/秒ですから、何らかの措置により少しでも歩行速度が上がれば良しとする見方です。現状の1.2m/秒を実力と判断します。そのうえで、少しでも速度が上がれば改善されたと判断するわけです。これが、相対値で評価する考えかたになります。

 どちらが妥当なのかは、ポリシーの違いです。歴史的に見るなら、日本の高度成長期には圧倒的に絶対値との比較で達成度を測るのが多かったように思います。しかし、その後多くの現場で改善を経験し、ある時期から私どもは相対評価に宗旨替えしました。PTS法の多くは米国発祥です。体格差はいかんとも克服できません。歩行速度も、足の長さが違えば変わるのが至極当然なことです。

 逆に、手先が器用な日本人は欧米人より指の速さは速いかもしれません。人の身体的な条件から設定された基準を、私どもにそのまま適用すること自体、矛盾があるのではないかと考えたことによります。そこで、身体的な条件から来る基準は、自らに合うものを選択あるいは再設定し、知恵によりその差を埋め、さらに一歩先を行くのが本当の改善と考えるようになったわけです。昨日より、今日が少しでも良くなれば、その努力を評価するのが人間性の面から妥当なのではないでしょうか。


 話は少々脱線するのですが、小生の大先輩にはIEの大家が何人もいました。その中の一人、佐藤四郎氏は、宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の決闘シーンを動作分析したそうです。詳しい内容は省略しますが、動作分析によれば、佐々木小次郎の長剣によるツバメ返しは不可能ではないかとの結論に至ったとか…